川口典孝さんが新海誠作品を支える覚悟でMBOしたコミックス・ウェーブ・フィルム

夏になると見たくなる映画が『君の名は』など新海誠さんが監督を務める作品と『サマーウォーズ』など細田守さんが監督を務める作品。
現在は細田守さんが『竜とそばかすの姫』を公開して、新海誠さんは年末から来年に向けて新作の製作の合間をぬって、「言の葉の庭」美術画集を発売し、オンラインサイン会もおこなったようです。
どちらの作品もファンが多いので、好きな方も多いのではないでしょうか?

どっちが好き?『竜とそばかすの姫』細田守監督 VS『君の名は。』新海誠監督、僅差で上回ったのは… /numan

今回は、新海誠さんの才能を見出し、独立までした株式会社コミックス・ウェーブ・フィルム(CWF)の社長である川口典孝さんについて書いていこうと思います。

伊藤忠商事からコミックス・ウェーブへの出向

川口典孝さんは1969年に東京都で生まれ、1993年に青山学院大学卒業後伊藤忠商事に入社。
入社後は2年間経理を務め、その後1年間秋葉原のゲーム問屋に出向、社内のゲームメーカー事業で2年間していました。このころが一番給料が良く、実家暮らしもしていたため、ベンツのオープンカーに乗っていたとか。
就活生が選ぶ人気企業ランキングに現在2年連続で1位になる会社は違いますね。

2.5万人の就活生が選ぶ「就職人気ランキング」/東洋経済オンライン

その後、1998年にコミックス・ウェーブ・フィルム(CWF)の前身となるコミックス・ウェーブ設立時に出向し、32歳で取締役になりました。
当時は社長、副社長を含めても社員は7人くらいだったそうです。

新海誠さんとの出会い

ちなみに、新海誠(本名は新津誠)さんは1973年に長野県小海町で生まれ、1996年に中央大学文学部国文学専攻を卒業。
家業の建設会社を継ぐための修行として父親に紹介された住宅メーカーを断り、大学在学中にアルバイトとして働いていたゲーム会社日本ファルコムに就職しました。
当時日本ファルコムではファンタジー的世界観で絵を作っていて、会社の仕事は充実していましたが、日常的な自分の住んでいる世界を表現したいなという思いがあったそうです。
そこで、家に帰ってから夜中に集中して、自分でアニメーションを作るようになり、半年くらいかけて『彼女と彼女の猫』という5分くらいのアニメーションを作成し、第12回CGアニメコンテストでグランプリを獲得。

グランプリをとった1ヶ月後くらいからストーリーを考え始め、7ヶ月で監督・脚本・演出・作画・美術・編集のほとんどを一人でこなしながら、25分の『ほしのこえ』を制作。
制作に専念するために、日本ファルコムを退社しています。
その間、コミックス・ウェーブが出していたゲームブランドminoriから依頼を受け、オープニングアニメーションの製作もしていたようです。

『ほしのこえ』の制作途中にコミックス・ウェーブの社員の一人が新海誠さんを見つけてきて、川口典孝さんとの付き合いが始まったようです。
川口典孝さんは制作途中の『ほしのこえ』を見て、天才だと感じ、以降、『秒速5センチメートル』、『君の名は。』、『天気の子』などの全新海作品でプロデューサーを務めています。

過去のご縁を紡いだことが第一歩

『ほしのこえ』制作中の映像を持ってテレビ局やDVDの会社を回りましたが、当時新海誠さんが新人ということもあり、相手にされなかったようです。そこで、自分で作って売ってやれとDVDメーカーをはじめました。
DVDの購入を最初に購入してくれたのが、伊藤忠の時代に出向していた秋葉原の問屋さんだったそうです。
点と点が、後になって結ばれて線になっていくことを実感していると川口典孝さんも話されています。

【伊藤忠OBに聞く野武士精神①:コミックス・ウェーブ・フィルム代表 川口典孝さん 前半】/Facebook

2002年『ほしのこえ』を発表し、下北沢トリウッドでのみ上映される単館上映作品だったが、ネット上の口コミによって話題を呼び、DVDは6万本以上の売り上げを記録しました。

MBOのために覚悟を背負った借金と一致団結

2003年ごろになると、伊藤忠本社からは「戻ってこい」とせっつかれ、新海誠さんからも「いつか伊藤忠へ戻っちゃうんですよね」と言われていたそうです。
新海誠さんをはじめとするクリエイターや自分が採用した一所懸命働いてくれている社員を残して戻れないと覚悟を決めコミックス・ウェーブに転籍しました。
その後、『秒速5センチメートル』の制作と並行して、2007年にMBO(マネジメント・バイアウト)してコミックス・ウェーブ・フィルムとして独立。

ちなみに、MBOとは

Management Buyoutの略称でM&Aの手法のひとつ。会社の経営陣が、金融支援(=買収をしようとする企業の資産や将来のキャッシュフローを担保として投資ファンド等からの出資・金融機関からの借入れなどをおこなうこと)を受けることによって、自ら自社の株式や一事業部門を買収し、会社から独立する手法のこと。

証券用語解説集/野村證券

MBOのために、個人で億単位の借金をしていて、当時は24時間365日借金のことで頭がいっぱいで、「腎臓売ったら300万円くらいにはなるのかな」とかを本気で考えていたそうです。

覚悟が伝わったのか、この時期から社員やクリエイターの一致団結が進み、今まで以上に新海誠さんの実力も上がり、チームを組んでるクリエイターのレベルもあがったようです。

新海誠の「1.5歩先を読む力」のスゴさ…『天気の子』はなぜ現実世界とリンクしたのか?/現代ビジネス

その結果が、『君の名は。』で興行収入が250.3億円という、当時の日本歴代興行収入ランキングでは『千と千尋の神隠し』『タイタニック』『アナと雪の女王』に次ぐ第4位(2021年現在は『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が403.2で1位になったため5位)という結果につながったのかもしれませんね。

歴代興収ベスト100/CINEMAランキング通信

一人の天才に惚れ込んで独立までする行動力

新海誠さんは有名ですが、今回はそんな新海誠さんを支えた川口典孝さんにフォーカスを当てました。
『ほしのこえ』の制作途中で、才能を見抜き、後に伊藤忠という安定したステータスを捨てて、借金を背負ってまでして支えた川口典孝さんの覚悟があったからこそ、新海誠さんの才能がより引き出されたのかもしれませんね。

タイトルとURLをコピーしました